- センスをみつける
- 2019.03.31 Sunday | お知らせ
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クルマの外観(見た目)を見て、デザインが良い/悪い、という表現をする自動車評論家批評家がいます。たくさんいます。デザインという言葉は、日本語でいう設計です。機械設計、土木設計、建築設計など。設計という行為は、かなり広範囲な物事を、有限な時間とお金の前提条件の中、理屈で構築して具体的なモノに作り上げていくと同時に、目で見て心地良く、使ってみて心地良い環境を作り上げる総合的な作業のことですから、外観を評価する言葉として、デザインが良い/悪い、という言葉を使うのは、的外れの様に感じています。外国語を使いたいというならば、ルックス(和製英語)が悪い、もしくは、アピアランスが悪い、というのが、最適な表現だと思います。それでも、文章で勝負しているクルマ評論の業界においては、多数派を占める「言い回し」なのでしょうから、言葉というのは、取り扱いが難しいものだな、と感じます(もしくは、「デザイン(和製英語)」と理解した方が、日本においてのみ通用する用法なのだと理解した方が、良いのかもしれませんね)。
さて、私がかつてお世話になった楢村徹設計室において、在籍中に褒められた経験というのは、実は、一度だけでした。しかも、一枚の建具のとても小さな取手についてのコメントで、建物が完成後に初めて訪れた際に、指を指した上で、「これは、ええ」です。独立後に私の事務所から外を眺めた景色を「良い」と言われたことを加えると二度だけです。彼は、楢村さんは、褒めない教育方針を貫いていて、「褒めて伸びた人を見たことがない」といつも言っていました。
先日、岡本太郎さんの名著『今日の芸術』を読んだのですが、そこには、セザンヌやゴッホの下手な絵画やピカソのキュビズムの頃の下手な絵画(より正確には、新たな表現を際立たせるためにワザと下手に描いた絵画)を取り上げて、こう書いてありました。「今日の芸術は、うまくあってはいけない。きれいであってはいけない。ここちよくあってはならない。」さらに、ずっと後には、「よかれあしかれ、何ごとにつけても、まず飛び出し、自分の責任において、すべてを引きうける。こういう態度によってしか、社会は進みません。」と書いてありました。
楢村さんが自分の部下たちをほとんど褒めなかったのは、自分も含めてみんな下手だ、という前提とともに、私たちスタッフたちが自分自身で苦しみ悶えて、新たな提案を考えたり(自分なりの感性を発揮すること)、立ち止まって思索を重ねたりする行為(哲学すること)を、サポートするためには、「褒めない」ということが、一番の近道だ、という判断があったのだろうと、今では思います。独立後の厳しい社会的な評価の中で生き抜く胆力を養う模擬的修行的な訓練を課していたのだろうと思います。
4月から7月までの毎月第四土曜日の午後に、「センスをみつける建築学講座」というものを開こうと、現在準備しています。全4回です。取り扱う内容は、建築設計とその他周辺の活動についてですが、その時々の判断基準に注目して、なぜその様な判断をしたのか、という種明かし的なことをストーリーを交えて語る講座になっています。建築系の人ではなく、あえて児島の一般企業の方々に向けての講座です。
現在、様々な業界で、先に進めない状況が生まれていますが、そこを打破していくためには、人真似では無くて、個人それぞれが、自分なりの生き方を定めて、腹を決めて進んでいくしか、開ける道も開けないのだろうと思います。数字(PL・BS)や技術に重きをおくのでは無く、自分が「美しい」と感じる道に進むのです。「センス」という言葉でさえ、人によって受け取りかたが違うので、難しいのですが、ここでいうセンスとは、感性のことです。つまり、綺麗とか、上手い、というのではなく、自分なりの感性(センス)・美意識の基準を再発見することが、先行きの見えない状況を開いていくために必要なことだと思います。テクニックを磨くとか、勉強しなければならない、という方面に傾くのではなくて、自分なりの感性をオモテに出していくのが、次の展開への近道ではないだろうか、と思うのです。
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