倉敷建築工房 山口晋作設計室
再生とリノベーションの違い
数年前から、混在して使われている、「再生」と「リノベーション」という用語ですが、前者のほうが戦前の木造住宅に使われるのに対し、後者の方は、それを含んだ、より広い範囲の建物の改造・改修を示す。というのが、一般的な理解でしょう。しかしながら、古民家再生工房の中で教えを受けた者としては、それだけではない違和感を、後者の方に覚えていました。

それで、今日、新たに出来た隈研吾さんの建物、「la kagu」の写真をみて、やっぱりそうか!と思ったものですが、「リノベーションには、時間軸の観念がない」ということではないではないか、と思ったのでした。ない、と言ってしまうと反論がでそうなので、「弱い」に置き換えたいところですが、ここは、大事なところなので、「ない」のまま、進めたいと思います。


(la kaguの写真1)

一般にも知られている建築家・隈さんの最新作で説明すると、どうも、「リノベーション」の方は、古いものを新しくする、ということは考えているけれど、古いものと新しいものとの共存、とか、古いものと新しいものとのコントラストを楽しむ、ましては、古いものと新しいものを重ねることで、時間軸を建築に呼び戻す、ということは、あまり興味は無いように感じます。キレイに作る、という点においては、隈さんに任せれば、かなりのクオリティができるのですが、依頼する側も、対比や時間軸を意識することは無く、キレイになればそれでよい、と感じているのでしょう。出来たものだけで判断すると、そのように思います。


(la kaguの写真2)

具体的に言いますと、私たちが古いものを扱うときには、出来るだけ、古い建物の構造をそのまま残そうとします。もちろん丸太などの掃除はしますし、土壁など風化が激しいものは、透明の塗料を吹き付けて、それ以上、埃が落ちないようにするなどの処置はします。また、古いものをそのままに!とは言っても、原理主義者のように、基礎を石にしたり、カマドを作ったりはしません。そんな風に重要文化財の民家を扱うようにはしないのですが、「これは再生工事です」と説明するときには、古い構造・骨組みをそのまま残した上で、新しいものを挿入して、意図的に新旧の対比が生まれるようにしています。

「la kagu」の場合には、「今回は鉄骨造だから」と言い訳が聞こえてきそうですが、しかし、40年程経っている鉄骨造なのだから、その時間が経っていることが、素人にもパッと見て把握できるようなものでないと、古い建物を使っている意味が半減するように、わたしなどは感じてしまいます。もともとは、本の倉庫だったようですので、その雰囲気が残った方が、良いのではないでしょうか。



(ヤマグチ建築デザインの写真1;住居の居間食堂)


(ヤマグチ建築デザインの写真2;天井見上げ)

私の作品の写真では、二枚目の天井に注目していただきたいのですが、通常は取り替えるところの、タルキや野地板なども、あえて交換せずに、古いまま使っています。これは、毎回の再生工事の際に、悩みの種だった「屋根問題」を解決するために英断した結果ですが、このときには、古い野地板を残した上で、その上に新しい屋根を掛けて「置き屋根」とすることで、それまでは取り替えてしまって、新しくせざるを得なかった「タルキ+野地板」を、古いままにしています。この、新しくせざるを得ないという「屋根問題」を解決できたことは、この作品にとっては、とてもプラスに働き、部屋に入ったとたんに、誰でも古いものを感じることのできるような状態になっています。
私たち古民家再生工房の流れを汲む者たちは、このくらいの感覚で、古いものを残そう、残した上で、新しいものを入れ込もう!と考えているのです。


(ヤマグチ建築デザインの写真3;奥の建物が再生建物)

私たちから見ると、上記のように古いものと新しいものとの対比が、「再生」においての重要ポイントだと理解しており、それありきの上での、小技がでてくるのであって、古いものすべてを白や灰色で塗っていては、古いものを使う魅力がでないではないか、と、感じるのでした。

いや、もちろん、「古民家再生」と「リノベーション」の違いは、そこだけじゃあないとは思います。ですけれど、古いものを残そう、という出発点があってこそ、元々あるものと新しいものの対比、コントラスト、というものを、大きな背景とすることで、新品のものには決して作り出せない、時間を重ねて来た物質の存在感が出てきますし、それがあることで、ドンとした存在感を醸し出すことが出来るので、この違いは大きいのだと思います。

スクラップ&ビルド、という建築の「消費社会」が、日本中でいまだに続いていますが、その社会問題に対して、対案を示すことが出来るのが、「再生」の理論です。古いものを新しくするのではなくて、古いものをそのまま使う、そうすることによって、そこで生活する人々が、過去の時間に手が届くような、過去の時間を共に体験しているような、そういった感覚をもちながら、日々の生活ができるという、そんな幸せな状態が、「再生」には、あるのです。
| 01:44 | comments(0) | - |

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