これからの住まい;眠るための住まい | 建築随想「仙芳丸航海日誌」
ヤマグチ建築デザイン
これからの住まい;眠るための住まい

建築史家の成り損ないとしては、住宅の歴史に思いを馳せて、そこから今現在の住宅を考えていくというのが正攻法で、そのためには、新しい建物も見つつ、古い建物を見て歩いたり、見るだけではなく、歴史資料を漁って、歴史の糧を身体に注入するなど、そういった試みを重ねて行って、例えば、これからは土間の家でしょう、なぜならば、、、と語るのであって、語った上で実際に作るのであって、そういうやり方が私の事務所の正々堂々とした攻め方です。

歴史に思いを馳せる等と言っても、ピンと来ない人が多いでしょうが、今では、「あ、携帯、失くした!」と大きな声で言えば、「あら、だいじょうぶー?」と周囲の人に言ってもらえるでしょうが、「あ、お米が無くなった!」といっても「じゃあ、買ってくれば?」と若干トーンの低い返事が返って来るというもので、時代が変われば共有する意識というものも変わるものなので、今のこの日本では、「携帯失くした」の方が俄然存在感がある事に気付くのです。「お子さん、だんだん食べるようになったんでしょう!?そりゃあ、お米も無くなりますって」と上沼恵美子相談員に言われそうですが、「でもね、ヤマグチさん、私この間、その携帯電話を、、、なくしちゃったのよー、もうびっくりしたわ〜。いまどき、お米よりも携帯よね。ぶーー」とも言われそうで、昭和の匂いのする彼女をしても、世の移り変わりには抗えなかったということでしょう。

時代が変われば意識が変わるという、そういう意識の違いの理由を探ってそこから、今の時代の住まいを考えていくという、一言で言えば、温故知新ですが、古い材料を使うことが、即、温故知新だと言う工務店のような安易なレベルで攻めて行っても、売り込み方がうまければそこそこ商業的には、安泰なのでしょうが、やはり、建築史家の成り損ないとしては、深入りしない程度に、こちら側に陣を取って、でも、外側ではなく、内側を見て行くというアウトサイダーの目線で、今日も建築を考えているのです。

さて、住まいとはどこから来たのか。
先人に寄れば、この問いは突き詰めて行けば、「寝る」という行為に行き着くそうで、寝るには、就寝と性交という二つの意味があり、でも、性交の方は屋外でもできるので、やはり、身体を休息させる方の寝るというのが、住まいの第一義的に必要とされた機能なのだそうです。
つまり、一個人にとって最重要な行いは「寝る」ということであり、寝るためだけの建物、というのが、昔は結構あったそうで、その場合には、食べることや水浴等というものは、屋外で行なっていたそうです。つまり、寝ること以外は、他者の視線を感じ、他者との関わりを想定した行為であり、食べることもふくめて、いわば、寝ること以外は社会的行為なのだ、ということがわかります。

かつては、「塗り籠め」と言われる、壁を土で塗り固めた小さい部屋を造って、(機能的必要から)家族みんなで、床に筵と藁を敷き詰めて(木綿が普及する前ですから)就寝用の着物を被って眠っていたようですが、寝具の発達と共に、就寝専用の部屋は無くなり、畳が一般に普及したことも相まって、今風の敷き布団と掛け布団さえあれば、どの部屋でも就寝することが出来ることになりました。つまり、寝具の普及前には、家族みんなで一つの狭い部屋に眠っていたものが、寝具の普及と共にどこででも眠れるようになり、子供と親は別の部屋、というのがやっと実現したという次第なのです。

こう考えていくと、食事をしたり、お風呂に入ったり、着替えたり、寛いだりなどという、「寝る」こと以外の住宅内のすべての行為を、共有空間で行なってもらって、家族みんなで「寝る」ことを、とても象徴的に扱った住まいのあり方というのがあり得るのではないか、という一つのスタイルが浮かび上がってくるのです。

今の日本の9割が勤め人ですが(公的統計)、職業が勤め人で家に滞在する時間は極端に少なく、家に対する要求はまさしく「就寝」という一つの行為に行き着くというひとが、世の人々の6割にも達するという統計(ヤマグチ調べ)が出ている昨今です。かつて社会学者たちは、核家族の先には疑似母子家庭があるのではないか、と三十年程前に予想したようですが、30年経った今では、男女雇用均等法という愚策によって母も働くようになり、教育の大衆化というこれまた愚作に寄って子供は学校に奪われ、住宅には子供しかおらず、いや子供も塾などで家にはおらず、そして誰もいなくなった、というのが、残念ながら、今の日本の社会であり、住まいであるといえるのではないでしょうか。

でも、最後の砦があります。そう、「寝る」ことです。一つの部屋で家族みんなが寝る、ということ。これを、最後の砦とし、家族である証しがここにあるのだ、とする住まいを造ってみても良いかもしれません。世の中が混沌とし、何が正しいものか、何が幸せなのか、考えあぐねている世界に向かって、みなさん、住まいとはこれだよ、住まいとは家族みんなで寝ることだよ、というように語り、実物の住宅として提示するのです。

| 22:43 | comments(0) | - |

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