倉敷建築工房 山口晋作設計室
コロナ禍が浮き彫りにした建築と住宅

特に4月や5月の頃は厳しかった。普段であれば、表面的な付き合いで誤魔化されていた孤独感・孤立感が、外出が制限されたコロナ禍の中で顕在化していったのだろうと思う。先日、30代以下の女性自殺者が昨年比で7割増だとのニュースを聞いた。孤独から絶望にスイッチした娘の遺骨を抱えた親たちの想いを考えると、胸が痛む。高齢世代だけではなく若い世代でも単身世帯の多い現代日本人の生活は(全世帯の1/3が単身、2015年国勢調査)、コンビニや通販という購買形態の拡大、また派遣社員やネットオンリーでの業務決済などの働き方の変化の中で、仕事以外で誰とも話しをしなくとも生活が流れていくようになっている。普段はあまり意識することのない人間関係の多様さ、深みや複雑さがもたらす安定感安心感といったものが、コロナ禍の中で一気に裸にされていくなかで、感染リスクを顧みずに直接会ってくれる友人がいるのかどうか、というのが親しさの指標・新たなモノサシとなって、私たちの日常に導入されたように思う。

 


(建築中の古民家再生住宅)

 

コロナ禍の中で特に大きな影響を受けたのが、飲食店やイベントホール、観光業などだったけど、彼らにとってみれば、自分たちのアイデンティティが自分自身が壊されたような感覚を、ザクッと腹をえぐられたような感覚を受けたに違いない。人が集まって楽しむための場を作り、共に生きてる実感(共同身体性)を得させるのが、彼らの仕事であって、それを提供した見返りに笑顔でお金を払ってもらうのが生業なのに、それを「お上」から止めろと言われたのだから、たまったものではない。厳しかった春から少し時間が経ったが、未だに窮屈な状態で仕事を継続していたり、廃業したり転業したりしている人も多いと聞く。

そういった状況を横目で見ながら、人とはこんなに急に人間関係を絶っても大丈夫なのだろうか、すっかりか細くなった人との繋がりに耐えられるほど人とは強かったのだろうか、人とは社会的な存在でもあるのだから、他者と関わり合ってこそ自分が浮き彫りになるようなそんな存在なのではなかったのだろうか、と驚いてしまった。どうなってしまったのか、と。

 

それと同じように、建築とは人が集まるための建物であるのに、集まるな!、と言われている状況を見て、住宅以外の建築を設計している人たちの心境は如何ほどのものかと想いを馳せた。建設工事は受注から完成までかなりの時間がかかるので、コロナ禍だからと言って、すぐに仕事が止まることはないにしても、そういう可能性を孕んだ社会状況が目の前に展開しているし、設計者自身も(ZOOM会議は別として)直接会う人の人数が激減している日常を経験しているのだから、これからはネット空間だけが生き残るのだろうか、果たして「建築」は今後どのようになっていくのか、などと考えたのではないか。

逆に盛り上がっているのが住宅だ。サラリーマン率9割以上の現在の日本社会では滞在時間が少ないが故に、今までは住宅が軽んじられてきた。寝るだけの場所に多くの関心を持たないのが、コロナ禍以前の日本であった。しかしながらコロナ禍では、人々が家で多くの時間を過ごすことになって、自身の住環境を改善しようとホームセンターや園芸店に足を運ぶことによって、住宅の中での自分の居場所を確保している。

 


(建築中の新築住宅)

 

コロナ禍での孤独感を癒してくれたのは、人との関わりだったが、人目を憚ることもあり、親しい人と会うのは、住宅となった。GoToナントカが始まって以降は、少しは緩和された(正確には、紛らわされた)けれども、厳しい時期には、喫茶店で人と会うことすら罪悪感を覚えたものだった。ひとりになって誰かと向き合いたいと思うとき、そこに建築はなく、あるのは住宅だった。

今後は、住宅での居心地の良さの追求に目を開かれたクライアントから、多くの注文が出されるだろうが、住宅とは元々いい加減且つあやふやな存在である人間を受け止める器なので、さらに多くの役割や違った用途を住宅に負わせる方向が生まれても全く大丈夫だろうし、ある意味では少し良い時代になってきたように感じている。「厳しい春」を経験した人たちは、雨風を凌ぐシェルターとしての住宅に加えて、人と人が憩う場としての住宅を、より良い空間にしようと本気になるに違いない。

建築は頼りにならず、住宅がそこにあった。前回も書いたが、住宅と建築を明快に分けた上で、例えば村野藤吾大先生がそうだったように、住宅を設計するときと、住宅以外を設計するときには、違うスタンスで臨むべきであって、「建築」への積年の想いを「住宅」にぶつけるべきではない。

| 19:40 | comments(0) | - |

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