倉敷建築工房 山口晋作設計室
薄い壁厚い壁、住宅は建築ではない再び

少し前から親族にアメリカ人が加わったのだが、彼には日本の家がどのように見えているのだろうかと、たまに思うことがある。

西欧とその影響を受けたアメリカの家は、日本人から見るとかなり厳重に各個室が独立していて、ドアを閉めると完全なるプライベートな空間が出来上がる。明治の終わりに黒田清輝がフランスで描いた裸体画を東京で展示した時に、それを見た日本人はドびっくりしたのだが、裸体を描くのが流行った背景として彼が学んだフランスでは、部屋を閉じれば、裸になっても誰からも見られることなく、自由に過ごすことができるような場が出来上がるという住宅の作り方の問題もあった(もちろん絵画の題材として、裸体を描くということは、一つの訓練として描く意味があり、それはヒトの骨・筋・筋肉・内臓などを熟知していないと人の身体を美しく描けないということ、また何も着ていない人間の姿を美しく描いたり彫刻として表現することは完全なるヒトを探求するという美学的テーマに合致していたので、裸体は一つのジャンルとして西欧美術には古くからある)。

西欧由来の住宅では、そういった「分厚い壁」が当たり前のことだけれど、日本ではそうではない。言わずもがな、日本の家は、襖か障子で各部屋の出入り口が仕切られているだけで、あちらのような重厚感のあるドアではない。また壁ですら、70ミリほどの土壁か、12ミリの板を打ち付けただけの壁であるから、視線こそ遮れるものの、隣の部屋の気配を十分に感じ取れるような住まいになっている。それが我々が知っている日本の家だった。明治終わりに黒田の絵を見た東京人は、そのあまりの落差にびっくりして、どうにかこうにか取り繕おうとして、その結果、「裸体婦人像」の腰に、警察!によって布が貼られるという事態にも至ったそうだ。

 

(黒田清輝「朝妝」1893年)

 

(黒田清輝「裸体婦人像」1901年)

 

さて、ということで、日欧の住宅の違いと共に、日々の個人空間の広がりについても日欧では違うので、というか、あるいは逆というか、正しくは物心お互いに刺激し合う形で、個人空間の広がりについての概念、人との関係性の構造が日欧では違うので、日常生活での他者との関わり方においても、自ずと違いが出てくる。

10月半ばから、ここから30分で行ける丸亀駅前の猪熊美術館で『窓展』の(東京国立近代美術館からの)巡回展が開かれるが、これには、ぜひ行こうと思う。かなりのパワーシフトで「窓」を取り上げているらしいので、上に書いたような西欧と日本の住まいの違いを反映した話も、きっとあるだろう。そこには、レンガ造などの「分厚い壁」に守られた部屋からの窓と、日本の「薄い壁」の部屋に作られた窓との違いがあるはずだ。

 

 

 

このエントリーは、コロナ禍になって以来初めてのものだけれど、なかなか筆を取ることができず、苦しんでいた。建築界での言論をリードして来たのは、ぼく自身が専攻していた建築史の先輩たちだったが、コロナ禍について言及していた人はごく限られていたように感じる。何かしらのコメントがあって然るべきなのに、これはなんだろうか。

 

建築とは、人が集まって使うものだけれども、コロナ禍では集まってはいけない、と言われる。駅に行くなイベントに行くな人と食事するな大学に行くな、と。ではどこに人がいるのかというと、住宅である。昨年から、住宅は建築ではない、と戦後に言っていた磯崎新大先生の発言を何度も反芻しているが、コロナ禍においては、この暴言は格言のように感じられて仕方がない。つまり、建築は人が集まって使うためのものだとするならば、その目的を敢えて立てなくても既に人が集まっている場所である住宅という形式は、やはり建築ではない、とするのが妥当だろうと思う。学生や若い設計者は、「建築」への積もり積もった想いを「住宅」にぶつけるのでは無くて、自分が生活することを前提にした日常の住まいというものを、より良くするために「住宅」を新たな目で見てはどうだろうか。また同時に、住宅は建築ではないという視座に立つことによって、逆説的により良い建築が設計できるようになるだろうと思う。もう中年になったので、コロナ禍においての後進へのオススメとしたい。

 

昨年、建築系ラジオから頂いた「第1回山田幸司賞」は、地方都市で独特な学び方と独特の建築に励んできたことへの「頑張ったで賞」だと思う。だけれども、「頑張ったで賞」がゴールだとは思っていない。生活を前提とした住まいをよりもっと広げることを、厳しい時代にあって歴史風土に根差した住まいの設計を今後も継続していきたい。

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