- 見えないものを信じる
- 2024.01.01 Monday | お知らせ
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信じるという言葉は、信頼すると置き換えてもいいだろう。今もこれを書きながら椅子に座っているが、目の前の椅子が自分の身体を支えてくれることを信頼しているからコソ、人は何の警戒もなく椅子に座れる。人は椅子を信じている。
設計事務所はモノを売らない。売らないどころか、工務店のように作りもしない。図面を書き、工事監理をするのみだ。依頼主はコンサル的な業務に加えて、委託業務に対しての報酬を支払ってくださる。よくよく考えると、これはもう椅子に座るようなもので、確かだろうと信頼くださるからに他ならない。いや、目に見えない椅子(建物) がキチンと実現するだろうと信じていてくださるのだから、もっと凄いと思う。感謝に絶えない。
ありがたい事に昨年も多くの仕事をさせて頂いた。代表的なものだけ写真であげるが、
まずは、置き屋根の食品工場だろう。かれこれ4年くらいは続いた大プロジェクトだった。食品を扱う工場という温度管理に常に意識を向けないといけない施設のためには、20世紀にできたエアコン技術で熱交換させて室内を冷やすのが一般的だけれども、よりもっと普遍的な方法として「置き屋根」という日本の伝統建築の仕組みを導入した。機械で頑張るだけでなく、仕組みとして真夏の屋根への熱射を室内に伝えない工夫を恒久的に導入したものだ。
こちらの会社の新事業です→ https://www.garakutas.com/
(ガラクタス ブルーロケット フード ラボラトリー)
(ガラクタス ブルーロケット フード ラボラトリー、と、草を植える我が長男)
(置き屋根の事例;山口設計室 住居部分)
(置き屋根の事例;ある古い民家の脇に立つ置き屋根の蔵)
次は、2012年春にオープンした倉敷美観地区の林源十郎商店・カフェゲバのでっかい緑カウンターをリニューアルする仕事だ。
外から見ると石油タンカーのような存在感があったカウンターを「シーズン1」とすると、今回は「シーズン2」と言える。「2」では、座れるカウンターを準備した。お客様にとっては座っていただけることが最大のチェンジだったが、お店側としては、カウンター上部にたくさんの棚を設けて、横移動の作業動線を最小にしつつ、「1」では厨房中からの出入り口が一つだけだったものを、保管場所へのアクセスのために出入り口をふたつに増やしたことが挙げられる。これらによって、より少ない人数でのオペレーションができるようになったと、先日喜ばれた。苦労した甲斐があった。
美観地区に住む友人によると、ある日の朝はオープン直後から満員だったいう。新規オープンに引き続き、今回も呼んでいただき光栄だった。ただ、予想以上に工事に時間がかかってしまい迷惑をかけた事が悔やまれる。今後もフォローし続けたい。
(完成直後の「シーズン1」2012年春)
(解体直前の「シーズン1」2023年夏)
(完成間近の「シーズン2」)
最後に、前回の投稿に出てきたこの下の写真のお宅だ。
試しに「高気密高断熱」でググってみると良いけれども、ほとんどが大壁の家で、梁が見えていることはあっても、柱が見えていることはほぼ無いだろう。おまけに土壁を塗っている家もほぼ無い。伝統的な構法の家というのは、気密断熱を鼻から諦めていることが多いし、相容れないものとして設計者も断念しがちだ。床も壁も天井も、その内部にそれほどスペースに余裕はないので、この春からの法施行にギリギリ対応できる程度の努力をイヤイヤ行なうというのが大半だろう。もしくは、特例を使って高気密高断熱に背を向ける設計者も出てくるだろう。古民家再生工房の仲間たちには、マジで良いから、こうやったらできるから、今すぐ真似をしてみて!と、このお家で得た知見を全てオープンにして、布教を始めたところだ。
僕のスタンスとしては、大きな歴史の流れの中にたまたま自分が居合しているだけであり、歴史という生態系の中に自分が位置付けられているだけに過ぎないという感覚が強い。自分が何か大きなことを実現するみたいな姿勢は、おこがましいというかある意味傲慢な感覚で、啓蒙主義が内包している行き過ぎた発想のような気がしている。そうではなく、世の中が向いている大きな方向性を後押しするような加速させるようなスタンスというのが、選ぶべき正しい道のように思っている。
(初の高気密高断熱住宅、2024年春の法施行基準よりも2段階上の断熱等級を持つ。)
その他、古い住宅の実測、カフェの計画、飲食店の補助金支援、文化財調査などなど、「見えないものを信じる」クライアントの皆様のお陰で、幾つもの仕事をさせて頂きました。社会活動では、保護司の活動、PTA活動(+学校運営協議会)、商工会議所の活動などに関わっており、市民交流センターでの塩田干拓講座や、昔からやっている松島分校美術館も並行して進めていました。今年も専門性を活かして、地域の必要に応えつつ、町医者のように励みたいものです。
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